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ど素人なりに音楽と広報について考えてみました~学問を活かすには~

前回の記事、「ど素人なりに音楽と広報について考えてみました~広報の効果~ - comoの考察ブログ」では、本来、広報の果たすべき役割と、今のクラシックの広報の実情を改めて考えてみました。

今回は一歩踏み込み、消費者行動学をクラシック音楽に活かせるかな?という思考実験を行っていきます。

消費者行動学の世界

(先に断っておくと、私はクラシック音楽のお客さんを”消費者”と呼ぶのにはどちらかというと抵抗ある方の人間です。ただ、一般的な広報・PRではサービス利用者やお客さんを含めて”消費者”という言葉で括るので、便宜上この記事内では消費者と表記することをご了承ください。)

消費者との距離を測るとき、消費者がどこに立っているかがわからなければ、私たちはどちらに歩み寄ればいいのかわかりません。相手の位置を知るための学問が、消費者行動論です。消費者行動論は、消費者がモノやサービスを知ってからどのように購入までの行動を構築していくかをまとめた学問で、いろんな人が、様々な消費者行動モデルを提唱しています。今日は、超オーソドックス現代版消費者行動モデルと、最近注目を集めているコンテンツマーケティングでのモデルを紹介します。

●AISASモデル

AISASモデルは、電通が2005年に商標登録した消費者行動モデルで、購買行動を以下の5つの段階に分けたものです。

例えば
①新型のiPhoneが発売になることを認知
②今度のiPhoneは防水になると聞き、興味を持つ
③他の世代のiPhoneと比較したり、価格を確認したり
④購入
iPhoneが届いたらSNSでシェアし、口コミを投稿

こういったAISASモデルに沿った購買行動は、日ごろのお買い物で皆が無意識に行っていることだと思います。そして実は、それぞれの段階に合わせたAppleの広報戦略も、日常的に目にしているはずです。ぱっと思いつくだけでも、下記のような使い分けです。

①Attention…TVCM、記者発表、リスティング広告など
②Interesting…ランディングページ、ガジェット紹介記事など
③Search…Appleサイトでの機種比較ページ
④Action…分割購入や保証についての案内
⑤Shere…SNSや購入ページでの口コミ情報窓口機能

このようにAppleは、消費者の持っているであろう情報、次に起こしてほしい行動によって広告を使い分けており、ギャップを埋めるための複数の広報が用意されていることがわかります

●DECAXモデル

続いて、AISASモデルの10年後にあたる2015年に電通デジタルが提唱したDECAXモデル。こちらも、消費者の行動を5つに分けています。

一見AISASモデルと似たモデルですが、決定的な違いは、①Discoceryと⑤Experienceの部分です。

これまではCMや新聞折り込みで消費者から商品・サービスを認知(Attencion)してもらうアプローチから始まることが多かったのですが、DECAXモデルは、消費者が自ら情報を検索し、発見(Discocery)してもらうことを想定しています。ファーストアプローチとして、検索にヒットすることや、自社メディアを充実させることで発見してもらおうという考え方です。
また、Experienceは、サブスクリプションやアフターサポートを念頭に置いており、一度の消費活動で終わらせず、継続的な関係性の構築を狙っているコンテンツを想定したモデルとなっています。さすが新しいモデルって感じですな。

DECAXモデルでは、消費者に「見たい」「もっと知りたい」と思わせること、そして消費者が検索した際に、適切な情報を与えるための準備する必要があります。キャッチ―な見出しやSEO対策はこのモデルとの親和性が高い、ということですね。

消費者行動論forクラシック音楽

今回は2つの消費者行動モデルを紹介しました。私が伝えたいのは、消費者行動モデルを知ると、一口にお客さんといってもいろんな段階があるんだなということ、そして、いろんな種類の広告がつくれるんだなということです。

(度々例に出してすみませんが、)iPhoneのテレビCMを思い浮かべてみると、CMの中では、機能の詳しい内容も、価格も紹介しておらず、ただ、「かっこいい!」と思わせることに照準を合わせていることがわかります。とにかくかっこいいと思わせることに成功すれば、興味を持ったお客さんが自ら情報を得ようと自社ホームページに訪れてくれるからです。Apple社ほど細かくないにしても、クラシック音楽の場でも、いろんな形の広報を打っていき、各段階のギャップをひとつずつ埋めていった方が良いのでは?と思うのです。

クラシックコンサートのチケット購入をAISASモデルを当てはめて考えてみましょう。コンサートのチラシを見た時、クラシック慣れしている人はコンサートを認知→興味→調査の段階まで、何の疑問も持たずに進むことができ、いきなり内容をみて購入を判断する、ということになります。一方、クラシックコンサートに馴染みがない人は、コンサートの存在を認知したとしても、自分との関係性が薄いため、興味の段階に進むフックがない。もしくは調査する手がかり、人脈、比較対象を持っていないため、購入につながりにくい、と推測できます。

クラシックコンサートも、新規に呼びかけたい場合は、手始めに”引っかかる広報”を作ってみるのはありじゃないかなと思います。お客さん自身とクラシックの世界をつなげるようなワードを選び、ツイートや投稿をする、という感じです。クイズなどアンケート機能を使った広報や、かっこいい動画、イラスト、印象的なフレーズなどを出していき、情報を先行させない広報をたくさん出していきます。もちろん、その後の導線を用意し、詳細な情報にアクセスできるよう準備をしておく必要がありますが。

ともあれ、消費者に対して階段状に広報を用意すること、すなわち各層に合わせたギャップ解消を意識することで、購入までの導線をつくることができるのです。

もうひとつ、消費者行動論を取り入れることで期待できるのが、単純接触効果です。単純接触効果は心理学の入門編で出てくる効果なのでご存知の方も多いかと思いますが、「何回も会ってるうちに好きになってきちゃった〜〜!」というあの効果です。
チラシという形でのみ広報する場合、対象とする消費者は"調査"や"確認"の層であり、接触する回数は基本的に1回となります。対象とする層それぞれに広報を用意し、広報チャネルもSNSや動画、雑誌、メディア掲載など複数に網を張ることで、お客さんは情報に何度も出会い、理解が深まる可能性が高まります。(特にインターネット広告の多くはエンゲージメントをもとにアルゴリズムでまた接触するように設計されていますので、より接触回数を増やすことが期待できます。)

このように、消費者行動論の中身をすべて理解しなくても、そういう考え方があるということを知るだけで、グッと広報の幅が広がると思います。広報のネタ探しに困った方は、消費者行動論をググってみるといいかもしれません。

6.おわりに

以上、思いつくままにタイプしてきましたこの記事ですが、要点はこんな感じです。

・広報は愛のコミュニケーションだ
・相手を思いやるには、ギャップを知るのが大事
・従来のチラシは、すでに詳しい人に向けての広報だった
・消費者行動論は相手とのギャップを体系的に捉えられる
・お客さんとのギャップに合わせた広報は、結果的に広報の総数が増えるので単純接触効果を得られそう

余談ですが、”広報の幅”と”一般に迎合すること”は切り分けて考える必要があります。コンテンツ自体が大衆化されると懸念する方も多いのですが、個人的には、それは分けて考えてほしいところです。広報に幅をもたせることは、自分の音楽を適切に届けるという意味で効果を発揮しますが、これも音楽や音楽家の振る舞い自体にポリシーを持ってこそです。やはり自己理解は不可欠ですね…。これはブランディングも絡んでくる話だろうなあ…(遠い目)

最初に申し上げた通り、私はプロの広報担当者でもない、大学の時にちょっと勉強しただけの人です。今回の記事で書いたことは広報の超上澄みでしかありません。クラシック音楽というめちゃニッチな世界とそのほかの世界の間にいる私だから、伝えられることがあるかなと思って書いてみました。これを広報活動について調べるきっかけにしていただけたらとっても嬉しいです!

最後までお読みいただきありがとうございました。