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敵を知りたくてビジネス著作権検定上級をとった話

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こんにちはこんばんは。

2020年末に「ビジネス著作権検定上級」にめでたく合格しました。
(えっへん)(なんとかギリギリ)(合格率高いからそんなすごくもない)

ニッチすぎて本屋でもなかなかお目にかかれない検定なので、地球のどこかいる、著作権をちょっと勉強してみたい地球人にむけて、体験記とその後の感想を書いてみることにしました。

そうだ、ビジネス著作権検定を受けよう

著作権煩わしい。なんで演奏するためにお金払うの? 曲を知ってもらうきっかけを作ってるんだし、うまくいったらCD売れるのに? いわば演奏は、原作の宣伝みたいなものなのでは?」
そう思っていた愚かな私が、著作権法くんはどういう言い分なのか聞いてみようじゃないかと、半ば喧嘩腰でまず最初に挑んだのが、「知的財産管理技能検定」の3級でした。

この検定はその名の通り、特許や商標、実用新案なども含めた知的財産についての検定で、著作権もそのなかのひとつの単元として登場しました。
「これはダメっぽいよなあ、これはセーフだったよなあ、、」程度の勉強で満足してしまったポンコツな私。検定を取ったあと、記憶は風と共に喧騒の渦の中へ……

それから10年近く経ったころ、音楽の著作権で注目を浴びた裁判がありました。(ええそうです、あれですあれ。今もニュースになるたびTwitterがザワザワしてるあれです)

以前に著作権に触れた時よりは、少し大人(?)になった私。よりリアルな当事者の声に触れるうちに「ん?これって、誰がなんの権利を主張してるんだっけ??」と、たくさんの?マークが浮かびました。

この問題をきちんと理解するには、やっぱり著作権法の考え方を理解せねばならぬ。
そう思いたった私はすぐスマホをシュンっ。

「🔍著作権 検定」……ほう、ビジネス著作権検定なるものがあるのか。

こうして私は、著作権という大海原への再出航を決めたのでありました。

どのくらいの勉強時間が必要なんだ?

ビジネス著作権検定受験者の合格率は70%程度。合格の基準は全40問のうち70%以上の正答なので、28問正解すれば合格です。4つだか5つだかの選択肢のマークシート方式。
合格率が比較的高い検定とはいえ、なんせ法律知識もないズブの素人なので、上級を受けようと決めてからは、ほどほどに勉強しました。

私が検定を受けたときの勉強スタイルはだいたいこんな感じ。

1.検定の日程を調べ、3ヶ月くらい後の検定に狙いを定める
2.対策本を購入
3.1日1時間程度、3ヶ月勉強。土日は1時間だったり3時間だったり
4.申込開始期日になったら申し込み。受験料を支払う
5.問題集おわったら過去問対策&判例ググる
6.いざ受験

私は、子どもたちを寝室に連れて行ってから寝息が聞こえるまで、寝室にあるミニテーブル的なとこで勉強するのが日課となりました。

ビジネス著作権検定のここが大変

公式が発表しているビジネス著作権検定上級の出題形式は、以下の通りです。

ビジネス実務、日常生活において必要とされる、(1)著作権に関する基礎的な知識、(2)著作権法および関連する法令に関する基礎的知識、(3)インターネットに関連する著作権および情報モラルについての基礎的知識、および応用力について多肢選択式問題として出題。なお、この応用力については、事例での問題点発見と解決能力について問う内容となる。*1

要は、著作権と周辺の法律についての基礎的な知識と、事例を用いた問題を、多肢選択式で出題するね☆てことですね。

法律ビギナーの私にとって、まずややこしかったのは、著作権法は「著作者・著作権者以外はコレしたらだめだよー」という書き方じゃなくて、「著作者・著作権者はこの権利を有するよ」「著作物はこんな保護を受けるよ」という書き方だってこと。
権利を有するってどゆこと!?という、そもそもの謎にぶち当たりました。法律を読み返して、主語と目的語が何なのかを確かめる感じで勉強しました。日本語って難しいよね……。

勉強に時間がかかったのは大きく以下の4つです。

著作権の定義

・著作者と著作権者の違い
・著作物の定義
・どうなったら著作権がうまれるのか
みたいなところです。単語の定義を揃えるところから始まるんですが、早速知らないことだらけ。
調べ物をする時、検索BOXにキーワードを入力すると思いますが、正しいキーワードを書けているかどうかで検索結果って変わるじゃないですか。単語の定義を勉強しただけでも、著作権まわりをググる時に楽になりました。

②支分権の内容

著作権は1つの著作物に対して複数の権利が束になっています。その束のうち、1つひとつ(支分権)がどんな権利なのかを理解していきます。
主なものだと
・複製権
・演奏権
・上映権
・頒布権
公衆送信権
などなど。ほかにもいっぱいあるんですが。

著作権は、音楽、絵画、彫刻、テレビ番組、映画、朗読などいろいろな形の著作物が対象となります。そして、コンテンツの種類によって付随する権利が変わります。各支分権の範囲については、先人たちが法廷でバトルしているので、過去の判例を読んでいくとそれぞれの性格がわかってきます。テキストでちょこちょこ注釈として判例がでてきたので、その度にググってました。

著作権の制限

著作権は制限される場合があります。どんな時に、どの支分権が制限されるのかを学びます。ほら、制限って、誰の何を制限しているかわかりにくくない? 利用者への制限、ではないんですよね。日本語むず。
有名なものだと、私的利用とか、学校での使用とか、非営利の利用とか。ここも「制限の範囲はどこまでなのか」がポイントなので、事例を想定してかなり細かく見ておく必要があります。

④関連する法律

そして最後に、国際的な枠組み・法律での立ち位置や、肖像権、パブリシティ権などの関連法もおさえておきます。そんなに厚く出題される訳ではないのですが、人を落とすための試験ではこういうところが多く出題されるものですから、入念に確認ました。

この4つの他にも、著作隣接権やら著作権侵害した時のことやら保護期間やら二次制作やら、章としては短いけど重要で身近な項目が様々あります。

検定ではこれらの権利についてありがちな例が出て、適切な対応を選ぶ、みたいな問題が多めに出ます。あくまで"ビジネス"著作権検定なので、ビジネス上起こりうる実用的な問題として出題されます。
出題文の細かい部分を読み飛ばすと、思わぬ落とし穴がありますので目を皿にして読む必要がありました。

著作権くんにお付き合いを申し込みます

著作権法を学んでみた私の新たな発見は、法律はどんどん進化しており、これに呼応して、様々な企業やプラットフォーマーが高いリテラシーのもと著作物を取り扱っていること。

音楽のことに置き換えると、サブスクのような新しい形態のサービス、例えばSpotifyYouTubeApple musicも(配分率はさておき)、著作権者にちゃんと利益配分されるよう管理団体・レコード会社と共に有機的に動いているから実現できています。もしもその様な管理組織が存在せず、すべての権利関係は各著作権者と個別にすり合わせが必要となったら、非効率すぎて誰もビジネスにしようと思わないでしょう。話をつける先がある程度まとまっているのは、市場にとっても大きなメリットです。

もう一つわかったのが、この権利すべてを自分で管理するなんてことになったら、とても大変だということ。自分の著作物がいつどこて利用されたか調べて、それに応じた金額を請求するなんて、私だったら不可能だと思います。

音楽は絵画や彫刻とは違って、それ自体は無形ですし、再現性が高い特殊なもの。再現(演奏)されるたびに著作権が絡んでくるから、なおのこと個人での管理が難しい。そういった煩雑さを一手に引き受けてくれている管理団体の役割はとても大きいことがわかります。

(支分権のうち管理団体が信託を受ける範囲は決まっています。「音楽の著作権は全部JASRACに訊けばいいや〜」ではなく、個別にレコード会社や著作者、著作権者等に問い合わせる必要がある権利もあります。録音物の使用とか。くわしくはコチラ)

実用的なhow toと同時に、著作権の全体像を知ると、著作権に対しアンテナ張って感度高く反応できる。できることがわかるようになれば、今度はこっちの番。創造性を働かせて新しいことにチャレンジできる。誤解されてきた著作権くんも、味方にすると心強いのな! というのがこの検定からの大きな学びでした。

著作権者の権利をしっかり守りつつも多様な楽しみ方が受け入れられる社会にしたい。「攻め」に転じた新たな循環を産むのは、テクノロジーの力か、教育か、民主主義か。私の遥かなる旅路は続く。

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